なぜ今「健康経営」なのか? 中小企業こそ取り組むべき人財への攻めの投資~①

こんにちは、社会保険労務士の飯村です。

近年、ビジネスの現場で健康経営という言葉を耳にする機会が増えています。

かつて従業員の健康管理は個人の問題、あるいは福利厚生としてのコスト(費用)と捉えられてきました。しかし今、その考え方は大きく変わりつつあります。

特に中小企業においては、健康経営はもはや選択肢ではなく、企業の存続に関わる不可欠な投資となっています。

初回となる今回は、健康経営の定義や、なぜ今多くの企業がこの取り組みを急いでいるのか、その理由とメリットを分かりやすく解説します。

👉参考:厚生労働省 データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン

👉参考:経済産業省 健康経営ガイドブック 健康経営優良法人認定事務局編

👉参考:経済産業省 健康経営の推進について

👉参考:経済産業省 健康経営度調査結果集計データ

健康経営とは何か?

健康経営とは、従業員の健康管理を経営的視点で考え、戦略的に実践することです。

最大のポイントは、従業員の健康保持・増進に向けた取り組みを単なる支出ではなく、将来的に企業の収益性を高めるための投資(健康投資)と捉える点にあります。

企業理念に基づき、従業員という「人的資本」に積極的に投資することで、組織の活性化や生産性の向上を引き出し、最終的には業績や企業価値の向上に繋げようという経営手法です。

💡人的資本とは

「人的資本は、個人のスキル、能力(教育及び暗黙知を含む)、健康状態」~OECDより

なぜ今、健康経営が必要なのか?

背景には、日本が直面している深刻な社会構造の変化があります。

  • 超高齢社会と疾病リスクの増大: 日本の企業では従業員の平均年齢が上昇しており、それに伴い生活習慣病などの疾病リスクや、がん・メンタルヘルス不調などの課題に直面する人が増えています。
  • 深刻な人手不足: 生産年齢人口が減少する中で、貴重な人財に長く、元気に働き続けてもらうことは、企業の存続に直結する課題となっています。
  • 医療費の増大: 従業員の高齢化は、企業が負担する健康保険料の増大も招いており、これを抑制するための予防が重要視されています。

健康経営がもたらす3つの大きなメリット

健康経営は、企業に以下のような具体的な投資リターンをもたらします。

① 生産性の向上(プレゼンティーイズムの解消)

健康経営で特に注目されるのがプレゼンティーイズムの解消です。

これは、欠勤(アブセンティーイズム)には至らないものの、何らかの体調不良(花粉症、腰痛、メンタル不調など)を抱えながら仕事をすることで、パフォーマンスが低下している状態を指します。

企業の健康関連コストの中で最も大きな割合を占めるのは医療費や病欠ではなく、このプレゼンティーイズムによる損失(約78%)であることが示されています。(企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメより)

健康経営によって従業員のコンディションを整えることは、この目に見えない巨大な損失を防ぎ、労働生産性を高めることに直結します。

💡アブセンティーイズム

健康問題による欠勤や病欠を指します。

  • 状態: 病気や怪我のために職場を休んでいる、あるいは休職している状態です。
  • 特徴: 勤怠管理データとして表面化するため、企業にとって把握しやすい損失です。

💡プレゼンティーイズム

出勤はしているものの、何らかの健康問題によってパフォーマンスが落ちている状態を指します。

  • 状態: 休むほどではないが調子が出ない状態で、具体的には花粉症、腰痛、偏頭痛、メンタルヘルス不調、睡眠不足などが原因となります。
  • 特徴: 勤怠管理上は出勤扱いのため、目に見えない隠れた損失となります。

② 企業価値の向上と株価への好影響

健康経営への取り組みは、投資家からも中長期的な成長が見込める企業として高く評価されます。

実際、健康経営度調査で高い評価を受けた企業の株価指数は、市場平均(TOPIX)を上回って推移する傾向があります。また、米国でも優良な取り組みを行う企業の株価パフォーマンスが市場平均を大きく上回るというデータが出ています。

③ 優秀な人材の獲得と定着(リクルート効果)

従業員の健康を大切にする会社というイメージは、採用市場において強力なブランドとなります。 優秀な学生や転職者にとって、安心して長く働ける環境は大きな魅力であり、人材の獲得や離職率の低下(人材の定着)に大きく寄与します。

中小企業の健康経営は攻めの経営

中小企業には、健康経営に取り組むべき理由と具体的なメリットがあります。

1. 中小企業こそ健康経営が必要な切実な理由

大企業に比べ、中小企業が健康経営を急ぐべき背景には、以下の切実な事情があります。

  • 1人の重みが違う: 大企業と異なり、中小企業では従業員1人が担う役割が非常に大きくなります。そのため、1人の人財の重みは大企業よりも中小企業の方が大きく、健康問題による欠勤や離職は経営に直結する深刻なダメージとなります。
  • 深刻な人手不足と採用難: 中小企業の約半数が人手不足に悩む中、生産年齢人口は今後さらに減少する見通しです。限られた人財に長く元気に働いてもらうこと、そして従業員を大切にする会社として選ばれることが、生き残りの鍵となります。
  • 従業員の高齢化と疾病リスク: 働く人の平均年齢は上昇し続けており、それに伴い生活習慣病やがん、メンタルヘルス不調のリスクも増大しています。体調不良によるパフォーマンス低下(プレゼンティーイズム)を防ぐことは、喫緊の課題です。

2. 中小企業が健康経営で得られる3つの大きなメリット

健康経営に取り組むことは、コストを上回る多大なリターンを企業にもたらします。

① 採用力の強化と離職防止(人財の確保)

従業員の健康を経営の基盤としているという姿勢は、求職者にとって大きな魅力となります。

特に若年層や優秀な人財にとって、安心して長く働ける環境は企業選びの重要な基準です。健康経営の実践は、優秀な人材の獲得(リクルート効果)と、定着率の向上に大きく寄与します。

② 労働生産性の向上と組織の活性化

体調不良を抱えながら働くことによる生産性の低下は、目に見えない大きな損失です。健康経営によって従業員が活力高く働けるようになれば、組織全体の活性化や生産性の向上が期待できます。

また、職場内のコミュニケーションが活発になり、心理的安全性の高い組織づくりにも繋がります。

③ 社会的信頼の向上と金融面での優遇

「健康経営優良法人」などの認定を受けることで、企業イメージが向上し、取引先や地域社会からの信頼が高まります。

さらに、地方銀行や信用金庫、日本政策投資銀行などから、低利融資(優遇金利)や補助金の優遇といった、経営に直結するインセンティブを受けられるケースも増えています。

健康経営優良法人認定制度は、地域の健康課題に即した取組みや日本健康会議が進める健康増進の取組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している法人を顕彰する制度です。経済産業省が制度を設計し、日本健康会議が認定を行っています。

まとめ

健康経営は、単に従業員の病気を防ぐための守りの活動ではなく、従業員がいきいきと能力を発揮できる土台を作り、企業の持続的な成長を支える攻めの投資です。

次回のブログでは、具体的に何から始めればよいのか、健康経営を導入するための4つのステップと、成功に欠かせない組織作りについてお伝えします。

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