
こんにちは。社会保険労務士の飯村です。
年末調整の時期となり、一年間の社会保険料の控除が正しくできていたかが気になるタイミングです。
従業員が「産前産後休業」「育児休業」「介護休業」「病気等による休職」などで会社を休むとき、よくご質問をいただくのが今回のテーマ。
「休業中の社会保険料って、どうなるんですか?」
実は、休業の種類によって取扱いが異なります。
この記事では、それぞれのケースをわかりやすく整理してご紹介します。
事前の取り決めと、休業する方に事前に説明しておくことがポイントです。
1 産前産後休業中の社会保険料は【免除される】
出産予定日前の6週間(多胎妊娠の場合は14週間)から、出産後8週間の「産前産後休業期間」は、健康保険料と厚生年金保険料の本人負担分・会社負担分が免除されます。
免除される期間は、
産前産後休業開始月から終了日の翌日の属する月の前月まで。
この期間、会社も本人も社会保険料を支払う必要がなく、その間も保険加入期間としてカウントされます。
2 育児休業中も【免除される】
産後休業が終わってそのまま「育児休業」に入った場合も、引き続き、社会保険料は免除されます。
免除される期間は、
育児休業の開始月から、終了日の翌日が属する月の前月まで。
この期間も、保険加入は継続します。
✅同月内に 14日以上育児休業等を取得した場合も免除されます
産後パパ育休(出生時育児休業)だと、月をまたがず開始月内で終了するケースがあります。
育児休業等を開始した日の属する月内に、14日以上(休業期間中に就業予定日がある場合は、当該就業日を除く。また、土日等の休日も期間に含む。)の育児休業等を取得した場合も、当該月の保険料が免除されます。
参考:厚生労働省育児休業等期間中の 社会保険料免除要件が見直されます。
3 介護休業中は【免除されない】
ここで注意が必要なのが介護休業です。
育児休業と同じ「休業」でも、介護休業中は社会保険料が免除になりません。
健康保険・厚生年金の保険料は、休業中も本人・会社ともに負担が必要です。
つまり、給与がゼロでも、保険料は発生します。
給与から引けない場合は、会社が従業員から別途徴収する必要があります。
下記4で、徴収方法をまとめています。
4 傷病等による「休職」期間中は【免除なし】
最後に、病気やケガなどで「休職(就業規則に基づく長期休み)」を取る場合です。
このケースも、社会保険料の免除はありません。
たとえ無給であっても、健康保険と厚生年金の保険料は会社・本人ともに支払い義務があります。
給与が支払われない期間の保険料は、多くの企業が次のいずれかの方法で徴収しています。
| 方法 | 内容 | メリット・注意点 |
|---|---|---|
| ① 前払い方式 | 休業に入る前に、休業予定期間分の保険料を給与から控除しておく | 休業中のやり取りが不要。ただし期間が延長した場合に追加徴収が必要。 |
| ② 休業明け精算方式 | 復職時に、休業中の保険料をまとめて控除 | 一時的に本人負担が大きくなるため、説明が必要。 |
| ③ 毎月振込方式 | 休業中も毎月、従業員が指定口座へ保険料を入金 | 継続的な管理が必要だが、公平でわかりやすい。 |
どの方法を採用するかは、会社の運用体制や休業期間の長さによって異なります。
ただし、どの方法を選ぶにしても、従業員に事前説明を行い、同意を得ておくことが必須です。
注意:休業明け精算方式で立替を行う場合
休業明けに清算する場合、一時的に会社が従業員の社会保険料を立替することになります。
賃金からまとめて控除する場合、個別に合意を得ます。
労基法第24条では賃金全額払いの原則が定めれています。
賃金からの控除が法令で認められている毎月の社会保険料とは別になりますので、・就業規則に記載する ・個別に合意を得る ・休業時の申出書等にも記載する、対応が必要です。
なお、休職中に健康保険から傷病手当金が支給されることがありますが、保険料の免除とは別の制度です。
傷病手当金は会社からの報酬ではなく、従業員の持つ公法上の債権になりますので、保険料の控除には適しません。
5 休業の種類でここまで違う!ところで、賞与は?
休業の取り方によって「社会保険料の扱い」はこんなに違います。
「免除になると思っていたのに、実は支払いが必要だった」というトラブルも少なくありません。
✅ どの休業が免除対象なのか
✅ 保険料はいつ・どのように徴収するのか
この2点をしっかり押さえることをおすすめします。
| 区分 | 社会保険料の取扱い | 保険資格 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 産前産後休業 | 免除される(本人・会社とも) | 継続 | 産休開始月~終了前月まで |
| 育児休業 | 免除される(本人・会社とも) | 継続 | 育休開始月~終了前月まで※ |
| 介護休業 | 免除されない | 継続 | 給与がなくても発生 |
| 病気による休職 | 免除されない | 継続 | 傷病手当金は別制度 |
休業期間中に賞与の支払いがある場合
免除無しの休業期間中に賞与の支給がある場合は、賞与社会保険料は免除されません。
免除有りの休業期間中に賞与の支給がある場合。
✅賞与を支払った月の末日を含んだ連続した1か月を超える育児休業等を取得した場合は免除されます。
(1か月を超えるかは暦日で判断し、土日等の休日も期間に含みます)
■ポイント■就業規則への明記~介護休業・休職中の社会保険料
■ トラブル防止には「就業規則」への明記が有効!
実務上、「休職中に保険料をまとめて払うとは知らなかった」「説明がなかった」といったトラブルは少なくありません。
休業後そのまま退職となってしまった場合、社会保険料を徴収できない事態が発生する恐れもあります。
介護休業中は、従業員は実家に帰っていたり、介護ホーム探しで外出が多かったりと、バタバタしています。
傷病休職中は、不安を強く抱えていることも多いため、会社の説明が足りないことでより不安になってしまう恐れもあります。
こうした混乱を防ぐために、就業規則に明記しておきます。
あらかじめルールを定めておけば、会社も従業員も安心して運用できます。
まとめ
介護休業や病気休職は、誰にでも起こり得る現実的なテーマです。
実際に発生してから慌てるよりも、平時から「取り決め」を整えておくことが大切です。
特に次の3点を押さえておきましょう:
- 介護休業・休職中も社会保険料の支払い義務はある
- 従業員からの徴収方法を明確にしておく
- 就業規則や社内規程に明記しておく
この準備があるだけで、いざというときのトラブルを減らせます。
会社としては、制度の違いを理解し、従業員にわかりやすく説明することが信頼関係の第一歩です。
「うちの会社ではどう運用するか?」を一度整理してみてはいかがでしょうか。

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