
こんにちは。社会保険労務士の飯村です。
部下から、「それ、ハラスメントですよ!」と言われてしまった。
このように言われた場合、驚きや戸惑いを感じるかもしれません。ショックを受けて、部下との関わり方が不安になるかもしれません。
しかし、状況を改善し、信頼関係を再構築する貴重な機会と捉えることができます。
大切なのは、冷静に対応し、問題の根本原因を理解し、適切な対策を講じることです。
なぜ部下は「ハラスメント」だと感じたのか
部下がハラスメントだと感じた背景には、いくつかの原因が考えられます。
- 意図と受け取り方のズレ: あなたは部下を思って言った、あるいは冗談や指導のつもりで言ったけれど、相手には強い圧力や人格否定に感じられたのかもしれません。
- 立場の違いによるもの: 上司にとっては些細なことでも、部下は評価やキャリアに影響するかもしれないと過度に不安を感じることがあります。
- コミュニケーション不足: 普段から十分な対話がなく、信頼関係が築けていない場合、ちょっとした注意や指示が厳しく聞こえてしまうことがあります。
- 言葉の選び方や態度: 強い口調、威圧的な態度、人前での叱責、個人的なことに踏み込む質問などが、相手に不快感を与え、ハラスメントだと感じさせる原因になります。
ハラスメントとは
そもそも、ハラスメントとはどのようなものなのかが分かっていないと、ハラスメントですよと指摘されても言葉に詰まってしまいます。
「そんなつもりではない!」とその場で激昂してしまったり、「ハラスメントをしてしまった、自分にはもう指導できないのでは」と萎縮してしまったり。
果たしてその行為・言動は、ハラスメントなのだろうか・・・
ハラスメントかどうかは、下記定義などを踏まえて会社(ハラスメント調査委員会など)が認定し、最終的に訴訟になった場合は裁判所が判断します。
「ハラスメントだ!」と訴えた方が決めるのではなく、言われた方が決めるのでもありません。
ハラスメントは、法により、下記の定義となります。
参考資料:厚生労働省「職場におけるハラスメント対策パンフレット」
1. パワーハラスメント(パワハラ)
職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3要件をすべて満たす言動を指します。
(労働施策総合推進法第30条の2第1項)
- 優越的な関係を背景とした言動
(上司から部下だけでなく、同僚・部下からの集団行為も含む) - 業務上必要かつ相当な範囲を超える
(社会通念上不必要、態様が不適切、執拗すぎるなど) - 労働者の就業環境を害する
(身体的・精神的苦痛を与え、能力発揮を妨げるレベル)
※ 適正な業務指示・指導は該当しません。
典型的な6類型
- 身体的攻撃(殴打、物を投げるなど)
- 精神的攻撃(侮辱、罵倒、人格否定など)
- 人間関係からの切り離し(隔離、無視)
- 過大な要求(明らかに遂行不可能な業務を課す)
- 過小な要求(合理性なく低レベルの仕事のみ命じる)
- 個の侵害(私生活への過度な立ち入り)
2. セクシュアルハラスメント(セクハラ)
職場におけるセクシュアルハラスメントとは、労働者の意に反する性的な言動により、
- 対価型:拒否や抵抗によって解雇・降格などの不利益を受けること
- 環境型:性的言動により就業環境が害されること
(男女雇用機会均等法第11条)
性的な言動の例
- 性的な冗談・噂・からかい
- しつこいデートの誘い
- 不要な身体接触
- わいせつ図画の配布や閲覧
3. 妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント
妊娠・出産、育児休業や介護休業の利用に関する言動により、労働者の就業環境を害すること。
(男女雇用機会均等法第11条の3)
典型例
- 「妊娠するなら忙しい時期を避けるべき」と繰り返し言う
- 「育休を取るなら昇進は無理だ」と脅す
- 「介護休暇を使うなんて迷惑だ」と嫌がらせする
冷静になること
言われた瞬間に反論したり、感情的になったりするのは避けましょう。
「そんなつもりはなかった」と即座に否定したくなりますが、まずは一呼吸おきます。
そこで感情的になってしまうと、関係が更に悪化してしまいます。
自分の行為を振り返ってみて、ハラスメントだった、と思ったら、内省し、謝罪をします。
その場ですぐに自分の行為を振り返ることはできないかもしれません。
可能ならば、「どのあたりがそう思ったのか教えて欲しい」と冷静に聞いてみても良いですが、部下は「ハラスメントだ!」と思っていて、上司は「ハラスメントではない!」と思っている場合、認識に齟齬がありますので、お互いに感情的になってしまうかもしれません。
否定したり強く反論したりすれば、「ハラスメントだ」と思った部下の気持ちを受け止めないことになり、部下からの信頼を失ってしまいます。
一人で抱え込まない、放置しない
一人で抱え込まず、必ず相談します。
会社にはハラスメント対応のフローがありますので、規定に沿って対応します。
フローが分からない場合でも、放置せず、すぐに上司や人事等に相談します。
言われた上司にとって
一人で抱え込み放置してしまうと、部下の気持ちを受け止めないばかりでなく、「ハラスメントだ!」を言われた上司の気持ちも受け止めないことになってしまいます。
「何も悪いことはしていない」、「そんなつもりではなかった」、「あの言い方がよくなかったのか、でも認めたくない」。
放置をすると、上記のような気持ちを押し込めてしまい、心理的な負担が増します。
自己不信、モチベーション低下が低下し、信頼を失ったことで徐々に意欲を削ぎ、今後の部下への指導に躊躇してしまう、指導しなければならない場面で、今まで通りの指導ができなくなってしまう、などの影響が出てしまう場合があります。
あるいは、「自分は悪くない」という意識が強まり、防御的・攻撃的になり、さらに関係が悪化してしまうかもしれません。
組織にとって
ハラスメントの訴えを無視することは、部下との信頼関係を壊してしまいます。
部下は「自分の問題を真剣に受け止めてくれない」と感じ、上司に対する尊敬の念を失い、不信感を募らせることになります。一度失われた信頼を取り戻すのは非常に困難で、チーム全体の士気が低下し、業務にも悪影響が出る可能性があります。
ハラスメント問題が放置されると、被害を受けた部下だけでなく、周囲の従業員も「もし自分も被害に遭ったら、助けてもらえないかもしれない」という不安を感じるようになります。
このような環境では、社員が安心して働けなくなり、離職者の増加や組織全体の生産性低下に繋がる恐れがあります。
会社がとるべき対応策
事業主には、労働契約法第5条により安全配慮義務があり、職場でのハラスメントを防止する義務があります。
労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法等により、防止措置を講ずることがが義務付けられています。
会社は、このようなケースの場合、部下の保護はもちろん、上司への適切なフォローを両立させることが重要になります。上司が学び直し、健全なリーダーシップを発揮できるように支援します。
ハラスメント防止体制の整備
- 就業規則や社内規程に「ハラスメント禁止」と対応フローを明記
- 社内相談窓口を設置(人事部門・外部窓口など複数)
- 研修・啓発活動
苦情が出たときの初動対応
- 迅速・中立に事実確認
→ 被害を訴える側・指摘された側、双方から聞き取り。 - プライバシー保護の徹底
→ 関係者以外に情報が漏れないよう管理。 - 二次被害防止
→ 発言した従業員が不利益な扱いを受けないよう配慮。
調査後の対応
- 事実関係に応じた措置
- 指導・注意
- 配置転換
- 懲戒処分(必要に応じて)
- 再発防止策の提示
- 研修受講
- チーム運営方法の見直し
- 定期的なフォロー面談
まとめ
「それ、ハラスメントですよ!」と言われた背景には、単に言葉の内容だけでなく、職場の関係性や心理的な要素が複雑に絡んでいることが多いです。
日ごろからコミュニケーションが取れているか、何かあればすぐに相談できる信頼関係を築けているか、言いにくい雰囲気ではないか、コミュニケーションが一方的ではないか。
信頼関係を再構築する貴重な機会としてとらえ、前向きに対応する姿勢は、他の従業員を安心させて、職場の雰囲気を改善させます。
適切な対策が組織の安定と成長に繋がります。
退職時に、実はハラスメントがあった、〇〇さんの〇〇が嫌だった、と言われるケースもあります。
その方との信頼関係構築は難しいですが、何故退職時に言ったのか、何故今まで言わなかったのか。
言えなかったのか。
言えなかった背景を探ると、組織でのコミュニケーションが見えてくるように思います。
失敗の先には、成功への道があります。

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