
こんにちは、社会保険労務士の飯村です。
前回の記事では、ストレスチェック制度の概要や意義についてお伝えしました。
今回はもう一歩踏み込み、「ストレスチェックは具体的にどのような流れで行うのか?」「実施する上で気を付けるべきことは何か?」を、社労士の視点でわかりやすく整理します。
ストレスチェック制度は「実施すれば終わり」ではありません。
正しい手順を踏むことで、従業員の健康保持と職場環境の改善につながる重要な制度です。
👇前回の記事はこちら
1. ストレスチェック実施の基本的な流れ
ストレスチェックは、以下のようなステップで進めるのが一般的です。
事業者は、ストレスチェックの実施前に、事業場の衛生委員会等で実施体制、実施方法等を審議・決定し、社内規程を定めます。
💡衛生委員会とは
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、従業員の健康や安全に関する対策等について調査審議する衛生委員会を設置しなければなりません。
① 実施体制の整備
まず事業場で「誰が何を行うか」を明確にします。
・ストレスチェック制度担当者の指名
・実施者(医師・保健師・看護師等)を選任
・実施事務従事者の任命
・実施規程の整備
・実施スケジュールの策定
会社は、まずストレスチェック制度担当者を指名します。ストレスチェック結果等の個人情報を取り扱わないため、実施事務従事者と異なり、人事課長など人事権を持つ者を指名することもできます。
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事業場又は委託先の外部機関の、医師、保健師、一定の研修を受けた歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師の中からストレスチェックの実施者を選定します。
事業場の状況を日頃から把握している産業医等が実施者となることが望ましいです。
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実施者からの指示でストレスチェックの事務を行う実施事務従事者を決めます。
①調査票の回収、記入・入力内容の確認、集計プログラムへのデータ入力と集計、評価点数の算出等、ストレスチェック結果を出力するまでの労働者の健康情報を取扱う事務
② 評価基準に基づく評価結果の出力、高ストレス者の確認・選定
③ ストレスチェック結果の封入等、ストレスチェック結果を出力した後に労働者に結果を通知するまでの労働者の健康情報を取扱う事務
④ ストレスチェック結果の労働者への通知の事務
⑤ 未受検労働者への受検勧奨
⑥ ストレスチェック結果の記録作成
⑦ 面接指導対象者への申出の勧奨
⑧ 集団分析のために必要な作業
を行います。
💡実施事務従事者とは
個人情報を扱いますので、守秘義務があります。人事上の不利益取扱い防止のため、人事に関して直接の権限を持つ管理的地位にある方は就けません。
ストレスチェック未受検者への受検の勧奨は、個人情報を扱わないため人事権がある方も出来ます。
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ストレスチェックに関する規程の作成は義務ではありませんが、ストレスチェック制度の従業員への周知、個人情報の取り扱いや高ストレス者への対応等、規程に定めておくのもお勧めです。
社労士が実施規程の整備やスケジュール管理をサポートすることで、スムーズな立ち上げが可能です。
👉ご参考:厚生労働省 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル 規程例あり
② 従業員への周知
ストレスチェックの目的、方法、個人情報の取り扱い、高ストレス者が受けられる支援などを丁寧に説明します。
従業員が制度を正しく理解することで、回答率と正確性が高まります。
③ ストレスチェック(調査票)への回答
厚生労働省の「職業性ストレス簡易調査票」(57項目あります)などを用いて、従業員が設問に回答します。
内容は以下の3区分で構成されています。
- 仕事のストレス要因(量・質・裁量権など)
- 心理的ストレス反応(疲労・気分の落ち込みなど)
- 修飾要因(周囲のサポート、上司・同僚・家族など)
Web形式・紙形式のどちらでも実施可能です。集計や個人結果の通知には、Web形式が便利です。
④ 個人結果の通知(本人へ直接)
結果は必ず従業員個人へ直接通知されます。封書や電子メール等で通知します。
事業者が本人の同意なく結果を見ることは禁止されています。
結果を受け取った従業員が、自分のストレス状態を振り返る機会にもなります。
通知するのは、①個人のストレスプロフィール(個人ごとのストレスの特徴や傾向を数値・図表で示したもの)、②ストレスの程度、③面接指導の対象者か否かの判定結果、です。
①は、下記3項目が必要です。
- 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
- 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
- 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
④セルフケアのためのアドバイスと、⑤事業者への面接指導の申し出方法(申し出窓口)も通知が望ましいとされています。
⑤ 高ストレス者の選定と面接指導の申し出
チェック結果に基づき、高ストレスの可能性がある従業員を実施者が判定します。
該当者には、実施者から「医師の面接指導を希望できます」と案内します。
申し出の有無は本人の意思が最優先です。
面接を受けた場合、事業者は医師の意見を聴かなければなりません。そして、医師の意見に基づき、必要に応じて下記のような就業上の措置を講じます。
・勤務時間の調整
・配置転換
・休養の付与
面接指導を受けるかどうかは従業員の自由ですが、なるべく受けてもらえるよう、実施者から勧奨をします。
面接指導を申し出すると高ストレス者である情報が事業者にいきますので、申し出を躊躇する従業員もいます。事前に制度を丁寧に説明しておくことが必要です。
2. ストレスチェック実施で気を付けるポイント
実施の流れそのものは難しくありませんが、いくつか注意すべき点があります。
① プライバシー確保は最優先
従業員は、個人情報が適切に扱われると安心して回答できます。
● 会社が個人結果を勝手に取得しない
● 実施事務従事者を限定する(守秘義務あり)
● 保存・管理方法を明確にする(保存義務5年)
これらが信頼を得るための必須ポイントです。
② 従業員への丁寧な説明が回答の質を左右する
制度の目的や流れを理解していないと、「何のためにやるの?」という疑問から回答が形だけになり、正確な結果が得られません。
説明会や資料配布など、丁寧に周知しましょう。
ストレスチェックの結果が従業員の意に反して、人事上の不利益な取り扱いに利用されないことも、丁寧に説明します。
③ 集団分析と職場環境改善を形式的にしない
数字を出すだけでは意味がありません。
分析結果を職場に落とし込んで初めて、制度が企業の力になります。
④ 外部機関や専門家の活用で負担軽減
ストレスチェックは、実施者・産業医・社労士・外部サービスとの連携が重要です。
・実施規程の作成
・実施体制づくり
・分析後の改善提案
などを専門家に任せると、会社の負担を大きく減らせます。
ストレスチェックの実施状況は
厚生労働省:令和5年労働安全衛生調査(実態調査)の特別集計によると、常用労働者数10人以上を雇用する民営事業場でのストレスチェックの実施状況は
- 50人未満の事業場:34.6%
- 50人以上の事業場:81.7%
となっています。実施義務のない50人未満でも、:34.6%の実施率です。
上記のうち、集団分析を実施したのは
- 50人未満の事業場:65.3%
- 50人以上の事業場:78.9%
更に、集団分析の結果を活用したのは
- 50人未満の事業場:50.0%
- 50人以上の事業場:63.8%
ストレスチェックを実施して終わり、ではなく、結果を活用できている企業も多い印象です。
※事業場は支店などの場所単位なので、企業全体の人数とは異なります
まとめ
ストレスチェック制度は、「年1回の義務対応」ではなく、職場をより良くするための重要なツールです。
正しい流れで実施し、プライバシーに配慮しつつ、高ストレス者へのサポートや集団分析からの職場改善まで行うことで、企業にとっても従業員にとっても大きなメリットが生まれます。
次回は、具体的な「集団分析の見方」や「改善策の立て方」をわかりやすく解説する予定です。



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