【2026年10月施行予定】カスタマーハラスメント対策が事業主の義務に~企業が取るべき実務対応を社労士が解説~

こんにちは、社会保険労務士の飯村です。

2025年6月4日、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対策を事業主の義務とする法改正が国会で可決・成立しました。
本改正は、労働施策総合推進法を改正し、カスハラ対策を事業主の「雇用管理上の措置義務」として位置付けるものです。

施行日は、2026年10月1日予定とされています。すべての事業主が対象となるため、早期の理解と準備が不可欠です。

👉参考:厚生労働省 カスタマーハラスメント対策リーフレット

👉参考:厚生労働省 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)について【概要】

労働者が1人でもいれば、原則すべての事業主が対象

今回の法改正では、企業規模や業種による例外は設けられていません。
正社員だけでなく、パート・アルバイトを1人でも雇用していれば事業主に該当します。

特に、顧客と直接やり取りする現場がある企業では、これまで「現場の問題」「個人対応」に委ねられてきたケースも多く、組織的対応への転換が求められます。

カスタマーハラスメントとは何か

職場におけるカスタマーハラスメントについて、次のような考え方が示されています。

①顧客等の言動であって
②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより
③労働者の就業環境が害されるもの

上記の①から③までの要素を全て満たすもの

ポイントは、「クレーム=すべてカスハラ」ではない、という点です。

正当なクレームや意見であっても、その態様・頻度・要求内容によっては、カスハラに該当する可能性があります。

カスハラかどうかの判断基準

実務上、判断の軸となるのは、主に次の2点です。

① 要求内容の妥当性

  • 商品・サービスに瑕疵があるか
  • 商品・サービス等と関係のない要求ではないか
  • 契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求ではないか

② 要求の手段・態様が社会通念上相当か

たとえ要求内容に妥当性があっても、

  • 大声での威圧
  • 長時間の拘束
  • 繰り返しの執拗な要求
  • 人格否定的な発言
  • 土下座の強要、SNSへの投稿を示唆する脅し

などがあれば、社会通念上相当な範囲を超える行為と評価されます。

この「内容」と「態様」を分けて考えることが、実務上非常に重要になります。

カスハラ対策で企業に求められる基本姿勢

法改正により明確になったのは、「労働者を守る責務は事業主にある」という点です。

  • 「お客様だから仕方ない」
  • 「売上のためには我慢すべき」

といった考え方は、今後は通用しなくなります。

カスハラは、企業としての管理責任として位置付けられています。

トップ自身が、基本方針・基本姿勢を明確に示す必要があります。

企業に求められる具体的な対応内容

事業主には次のような対応が求められます。

  • 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  • 適切に対応するために必要な体制の整備:相談窓口の設置と周知
  • 事後の迅速かつ適切な対応
  • 対応の実効性を確保するために必要な抑止措置
  • プライバシー保護・周知、窓口担当者の研修
  • 不利益取扱いの禁止・周知

既存のパワハラ対策等と共通する部分も多く、ハラスメント対策を一体的に見直す視点が有効です。

正当なクレームとカスタマーハラスメントの線引き事例

カスタマーハラスメント対策で最も悩ましいのが、「これは正当なクレームなのか、それともカスハラなのか」という判断です。

重要なのは、
👉 要求内容
👉 要求の手段・態様
を分けて考えることです。

以下、代表的な事例を見ていきます。

事例① 商品・サービスの不備を冷静に指摘している場合

  • 商品に不具合があり、交換や返金を求めている
  • 声は大きくないが、内容は具体的で合理的
  • 対応後は納得し、やり取りが終了している

ポイント
要求内容に妥当性があり、態様も社会通念上相当な範囲内であれば、原則カスハラには該当しません。

事例② 要求内容は正当だが、態様が過剰な場合

  • 正当な不備に対して、大声で怒鳴る
  • 長時間にわたり同じ説明を繰り返し求める
  • 他の顧客の前で威圧的な言動を取る

ポイント
要求内容の正当性があっても、要求の手段・態様が社会通念上相当な範囲を超えていればカスハラとなります。

事例③ 不合理・過剰な要求を繰り返す場合

  • 契約内容を超えた過剰な補償を求める
  • 一度対応済みの内容について、繰り返し謝罪を要求する
  • 「誠意を見せろ」と具体性のない要求を続ける

ポイント
要求内容自体が不合理であり、従業員を心理的に拘束・疲弊させる行為は、カスハラと判断されやすい典型例です。

事例④ 人格否定・威圧・脅しを伴う場合

  • 「無能」「辞めた方がいい」などの人格否定
  • SNSへの投稿や口コミを示唆して脅す
  • 土下座を求める、責任者を呼び続ける

ポイント
要求内容の妥当性に関わらず、人格否定や威圧行為は、カスハラに該当する場合があります。

まとめ:施行前に、今準備すべきこと

今回の法改正により、カスタマーハラスメント対策は、すべての事業主に課される法的義務となりました。

定義や判断基準を正しく理解し、「現場任せ」にしない体制を整えることが、これからの企業経営において重要なポイントとなります。

2026年10月(予定)の施行の前に、企業としては、

  • 自社で想定されるカスハラ場面の洗い出し
  • 現在の対応フロー・相談体制の確認
  • カスハラに発展させない体制を作っておく

を進めておく必要があります。

制度を整えることは、従業員を守るだけでなく、企業自身を不要なトラブルや紛争から守ることにもつながります。

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