
こんにちは、社会保険労務士の飯村です。
働き方の多様化が進む中、個人事業主の約35%が健康診断を受けていないなど、健康管理の遅れが課題となっています。
厚生労働省は、「労働者と同じ安全衛生水準を享受すべき」との基本理念からガイドラインを策定し、労働安全衛生法の改正による義務化も段階的に進めています。
そこで本記事では、個人事業者と注文者の双方が今取り組むべき具体的な対策と法改正の流れを分かりやすく解説します。
1. ガイドライン策定の背景
本ガイドラインが掲げるのは、「労働者と同じ場所で働く者や、類似の作業を行う者は、契約形態に関わらず同じ安全衛生水準を享受すべきである」という基本理念です。
労働市場においてフリーランスやギグワーカーは不可欠な存在となっていますが、その健康管理は制度の谷間に置かれてきたのが実態です。
今回のガイドライン策定は、個人事業主の健康維持が単なる個人の問題ではなく、取引先の事業継続性や社会・経済全体の持続可能性に直結するとの認識に基づいています。
👉参考:厚生労働省 個人事業者等の健康管理に関するガイドライン
2. 「個人事業者等」の対象者は?
誰が保護の対象か、誰が配慮の主体となるのかを理解することは、コンプライアンス遵守とリスク管理の第一歩です。
対象者の範囲
ガイドラインにおける「個人事業者等」とは、以下を指します。
- 労働者を使用しない個人事業者(フリーランス、一人親方など)
- 中小企業の事業主
- 法人の役員
労働者性の判断
形式的に請負・準委任契約を交わしていても、実態として労働基準法上の「労働者」とみなされる場合は、本ガイドラインではなく労働関係法令が直接適用されます。
判断の柱は以下の2点です。
1 「使用従属性」に関する判断基準
(1)「指揮監督下の労働」であること
ア 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
イ 業務遂行上の指揮監督の有無
ウ 拘束性の有無
エ 代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
(2)「報酬の労務対償性」があること
2 「労働者性」の判断を補強する要素
(1)事業者性の有無
(2)専属性の程度
💡 「うちはフリーランス契約だから安全衛生は関係ない」という注文者側の思い込みや、受注者側の「自分は事業主だから守られない」という誤解は、不慮の事故の際に法的・経営的リスクを招きます。実態に即した正しい属性判断が必要です。

3. 注文者が実施・配慮すべき「5つの柱」
ガイドラインでは、直接の発注者だけでなく、仲介業者やプラットフォーマーも、契約内容の履行に指示・調整を行う場合は「注文者等」として責任の主体に含まれることを明記しています。
不利益取扱いの禁止
個人事業主が医師による面談や健康確保の措置を求めたことを理由に、契約解除や更新拒否をすることは厳格に禁止されています。
注文者が取り組むべき「5つの柱」
- 長時間の就業防止 週末・週初納品や夜間発注・翌朝納品といった短納期発注の抑制。長時間就業により疲労蓄積が認められる個人事業主から申し出があれば、医師による面談機会の提供と費用負担を行うことが望ましいとされています。
- メンタルヘルス不調の予防 ハラスメント相談体制の整備。
- 情報提供と機会の提供 危険有害業務のリスク情報の提供、安全衛生教育・健診情報の提供、およびそれらを受講・受診するための時間的配慮。
- 健診費用の負担・配慮
- 有害業務: 特定1社から6か月以上受注している場合、費用は全額負担義務。複数社から受注している場合、個人事業主は実働日に基づく「費用按分(日単位に分割した請求)」を注文者に行うことができ、注文者はこれに誠実に応じることが望ましいとされています。
- 一般業務: 週40時間かつ1年以上の継続が見込まれる場合は負担が望ましい(40〜74歳の特定健診対象者を除く)。
- 適切な作業環境の確保 作業場所を特定する場合の空調・換気・照度の確保。設備(局所排気装置等)の稼働や使用許可の配慮。
💡これらの措置は単なるコストではなく、パートナーである個人事業主の離脱を防ぎ、事業の安定性を高めるための戦略的投資です。
特にプラットフォーマーは、直接の注文主でなくとも、その仕組みが長時間労働を誘発していないか、配慮の主体としての対応が問われています。
4. 個人事業者自身が取り組むべき主体的な健康管理アプローチ
自律的に働く人にとって、健康は最大の経営資源です。
受注者自身が取り組むべき9つのアクションを整理します。
9つのアクションプラン
- 健康意識の向上: セミナー等の活用。
- 有害業務リスクの理解: 安全衛生教育の受講。
- 定期健康診断の受診: 1年に1回の受診。40〜74歳の方は加入する保険者の「特定健診」を活用することで、注文者の費用負担を抑えつつ、スムーズに受診することが可能です。
- 長時間就業の防止: 「マルチジョブ健康管理ツール」等での時間把握。
- メンタルケア: 「こころの耳」でのセルフチェック。
- 腰痛防止: 作業姿勢の調整。
- 情報機器作業管理: VDT環境の整備。
- 作業環境の確保: 自宅等の換気・照度管理。
- 注文者の安全措置への協力: 現場ルールの遵守。
💡 国や注文者が提供する機会を「いかに賢く使いこなすか」が、プロフェッショナルとしてのリスクマネジメントです。
特定健診や公的相談窓口を主体的に活用し、自らのパフォーマンスを最大化する視点を持ちましょう。
5. 知っておきたい!段階的な法改正スケジュール
ガイドラインの背景には、段階的に強化される「法的義務」のタイムラインがあります。
法改正スケジュール
- 2023年4月1日: 危険有害作業における保護措置の義務化(一部)
- 2025年4月1日: 危険箇所からの退避や立入禁止等の措置の義務化
- 令和8年(2026年)4月1日: 注文者等の配慮規定が全業種に拡大。混在作業場所における元方事業者の措置義務対象に個人事業主が含まれるよう拡大
- 令和9年(2027年)1月1日: 業務上災害報告制度の創設
- 令和9年(2027年)4月1日: 個人事業者等自身への義務付け(安全装置のない機械の使用禁止、特定の教育受講義務など)
👉参考:厚生労働省 個人事業者等の安全衛生対策について
6. おわりに(便利な国・公的支援ツールの紹介)
安全衛生の体制整備には、専門的な知見が必要です。以下の公的リソースを積極的に活用してください。
支援ツールのリスト
- 産業保健総合支援センター・地域産業保健センター: 無料の相談窓口
- こころの耳: メンタルヘルス・疲労蓄積度のセルフチェックツール
- マルチジョブ健康管理ツール: 就業時間と健康情報を一括管理できる公式アプリ
- 自宅等でテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト
- 疲労蓄積度セルフチェック:職場における疲労蓄積度を測定
本ガイドラインの遵守は、個人と企業の双方が「安全に、かつ安心して働き続けられる」社会を作るための鍵です。
発注者・受注者が互いにパートナーとして健康を尊重し合うことが、結果として最も効率的で強靭なビジネス基盤を構築することに繋がります。
まずは一つ、今できる対策から着手しましょう。
法適合性の診断や、安全衛生管理の体制づくり、実務上の手続きは、労務管理のプロである社会保険労務士へお気軽にご相談ください。
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