
こんにちは、社会保険労務士の飯村です。
近年、職場での熱中症リスクは深刻さを増しており、2025年の職場における熱中症の死傷者数は1,803人と、過去最多を記録しました。
事業主には、労働者の命を守るために適切な措置を講じることが強く求められています。
本記事では、事業主として対応しなければならない熱中症対策のポイントをまとめました。
令和7年から義務化された3つのアクション
労働安全衛生規則の改正(令和7年6月施行)により、熱中症の重篤化を防止するため、以下の対応が事業者に義務付けられました。
- 体制整備:本人や周囲の者が熱中症の兆候を報告するための体制を整える
- 手順作成:作業離脱、身体冷却、医療機関への搬送など、重篤化を防ぐための実施手順を作成する
- 関係者への周知:上記の内容をすべての作業者に知らせる
上記は、暑さ指数(WBGT)28度以上または気温31度以上の環境下で、1日4時間を超える作業などが想定される場合に必須となります。
暑さ指数(WBGT)の把握と活用
熱中症予防には、気温だけでなく湿度や輻射熱を取り入れた暑さ指数(WBGT)の活用が不可欠です。
- 測定と確認:環境省のサイト等で予報を確認し、必要に応じて職場でWBGT指数計を用いて実測しましょう。
- 基準値に応じた措置:WBGTが基準値を超えるおそれがある場合は、作業内容の変更、中断、または休憩時間の延長といった対策を講じなければなりません。
💡暑さ指数(WBGT)とは
熱中症を予防することを目的とした、暑熱環境による熱ストレスを評価するための指標
単なる気温とは異なり、人体と外気との熱のやり取りに与える影響の大きい湿度や輻射熱(地面や建物からの照り返し)なども取り入れた指標(湿球黒球温度)です。
現場の本当の暑さのリスクを判定し、具体的な予防アクションを起こすための重要な物差しとなります。
タイミング別の健康管理チェック
作業者の体調変化を逃さないよう、以下の3つのタイミングでチェックを実施することが推奨されます。
- 前日:熱中症警戒アラートを確認し、翌日の作業見直しを検討する。深酒を避け、睡眠を十分にとるよう指導する。
- 仕事前:朝食を摂っているか、睡眠不足や二日酔いはないかを確認する。
- 仕事中:単独作業を避け、お互いに声を掛け合う。現場パトロールを行い、水分・塩分の補給を促す。
現場で実施すべき具体的な環境対策
職場の状況に応じたきめ細かな対策が必要です。
- 屋外作業:テント等で日陰を作り、早出・早帰りなどで炎天下を避ける。打ち水は蒸し暑さを避けるため、早朝か夕方に行います。
- 屋内作業:熱源を遮熱板で仕切る、窓に遮光シートを貼る、壁面緑化を行うなどの対策が有効です。
- 休憩の配慮:休憩場所が遠い場合は移動時間を考慮して休憩時間を設定し、速やかに利用できるようにします。
業種別の発生状況と特徴
職場における熱中症は、特定の業種で多く発生する傾向があります。
- 死傷者数が多い業種:製造業と建設業が突出しており、2021年から2025年までの5年間の合計死傷者数(5,554人)のうち、この2業種で約4割を占めています。
- 死亡者数が多い業種:同期間の合計死亡者数(131人)において、建設業(52人)が最も多く、次いで警備業(18人)となっており、これら2業種で全体の4割から7割を占める年もあります。
- その他の業種:運送業、商業、農業、清掃・と畜業などでも、毎年多くの死傷者が発生しています。
👉参考:厚生労働省 職場における熱中症予防情報
1.建設現場(屋外)の状況と対策
屋外の過酷な環境下での作業が中心となるため、物理的な環境整備が重要です。
- リスク要因:直射日光や地面からの照り返し、養生シートで覆われた風通しの悪い場所での作業、重量物の運搬による身体への高負荷などが挙げられます。
- 具体的な対策:
- テント等による日陰の確保、早出・早帰りによる炎天下の回避
- 打ち水(蒸し暑さを避けるため早朝や夕方に実施)
- 大型ファンによる気流の作成、ファン付き作業服やヘルメットの活用
- 台車やリフターの使用、または2人以上で作業し身体負荷を軽減する
- 休憩場所への配慮:現場から休憩所が遠い場合、移動時間を考慮した休憩時間を設定する
2.製造現場(屋内)の状況と対策
屋内特有の熱源管理と建物の遮熱がポイントです。
- リスク要因:工作機械や炉などの熱源、窓からの日差しによる建物全体の蓄熱(特に夕方にピークに達する)などがリスクとなります。
- 具体的な対策:
- 熱源の遮断:遮熱板で熱源を仕切る。
- 建物の遮熱:窓に遮光シートを貼る、壁面緑化を行う。
- 水分補給の励行:食品工場など衛生服やマスク着用が必要な現場では、目立つ場所にドリンクサーバーを設置し、意識的な水分摂取を促す。
3.その他現場別の特徴と対策
作業形態に合わせたきめ細かな対応が求められます。
- 警備業:持ち場を離れにくい特徴があるため、周囲と声を掛け合って休憩を取る。空調のない場所では、冷却水が循環する冷却ベストなどの活用が有効です。
- 宅配・運送業:規則的な休憩が難しいため、日陰でこまめに休憩し、給水ボトルを常備する。車内との温度差を作らないよう窓を開けて走行する工夫も有効です。
- 引っ越し業:身体への負荷が極めて高く、暑さ指数が低くてもリスクがあります。客先のトイレを借りられないことで水分摂取を我慢しないよう、事業主が事前に交渉しておくことも重要です。
- 冷蔵・冷凍倉庫:内外の気温差により夏バテ状態になりやすく、汗をかきにくい体質になることがあります。重ね着によるこまめな体温調整が必要です。
- ビルメンテナンス:夜間作業時に空調が停止し、高温多湿になることがあります。通気性の良い作業帽を着用し、単独作業を避けることが推奨されます。
- 調理場:輻射熱で体温が上昇しやすく、またグリスフィルターの汚れにより排気が不十分だと室温が上がります。定期的な清掃と通気性の良いコックコートの着用が効果的です。
- 農業・林業・畜舎:ビニールハウス内など暑さ指数が極めて高い場所があるため、早朝作業を基本とし、日陰での十分な休憩を確保します。
万が一の緊急対応フロー
「いつもと違う」と思ったら、躊躇せずに対応することが命を救います。
- 意識がない場合:直ちに119番通報を行います。
- 意識がある場合:涼しい場所へ避難させ、衣服を緩めて首、脇の下、足の付け根などを冷やします。自力で水が飲めない場合はすぐに医療機関へ運びましょう。
- あやまった行動に注意:様子がおかしい作業員を「平熱だから」と一人で休ませるのは危険です。放置せず、必ず誰かが付き添ってください。
共通して実施すべき健康管理
全業種共通で、前日からの体調チェックが不可欠です。
- 前日:深酒を避け(利尿作用で脱水しやすくなる)、十分な睡眠をとる。
- 仕事前:朝食の摂取確認、二日酔いや寝不足がないかの確認。
- 仕事中:単独作業を避け、互いに声を掛け合う。尿の色で脱水状態を確認するなどのセルフチェックも有効です。
熱中症対策を労働者任せにしない
熱中症対策は労働者の自己管理に任せるだけでなく、事業主や管理者が主体となってこまめに声掛けを行うことが、重篤な災害を防ぐために極めて重要です。
- 「報告を待つ」のではなく「見つけに行く」姿勢:本人からの報告体制を整えるだけでなく、事業者が現場パトロールや巡視を通じて積極的に作業者の状況を把握することが求められています。
- 具体的なチェック項目での声掛け:単に「大丈夫か」と聞くだけでなく、「しっかり眠れたか」「朝食を食べたか」「二日酔いではないか」など、具体的な体調の変化を確認することが推奨されます。
- 休憩と水分補給の強制的な促し:作業に集中していると水分補給や休憩を忘れがちになります。監督者が「水分を摂ろう」「少し休もう」と具体的に声を掛けることで、安全を確保します。
- 単独作業を避け、相互に確認し合う:一人で作業をしている場合は特に異変に気付きにくいため、周囲の作業員や管理者が意識的に声を掛け合う体制を作ることが大切です。
職場での死亡災害の多くは「初期症状の放置や対応の遅れ」が原因となっています。
事業主がリーダーシップを発揮し、現場でのコミュニケーションを密にすることが、大切な従業員の命を守るための第一歩となります。
まとめ 安全な職場環境をつくるために
事業主は、令和7年6月施行の改正規則に基づき、現場の実情に合わせた「報告体制の整備」「重篤化を防ぐ手順作成」「作業者への周知」を行う義務があります。
熱中症は、管理体制の不備や知識不足によって防げたはずの事態が重篤化することがあります。
最新のガイドラインに基づき、安全な職場環境を整えましょう。

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