
こんにちは、社会保険労務士の飯村です。
「人が採れない、定着しない」。
多くの中小企業が直面しているこの課題に対し、新たな対策が2028年に義務化されます。
ストレスチェックこれまで従業員50人未満の事業場では努力義務とされてきましたが、法改正により2028年(令和10年)4月1日から、すべての事業場で実施が義務となります。
「また事務作業が増えるのか……」とため息をつく前に、ぜひ本記事をお読みください。
ストレスチェックは、適切に活用すれば「休職リスクの回避」と「組織改善」を同時に叶える、経営の強力な武器になります。
👉参考:厚生労働省 小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル
👉参考:厚生労働省 「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」スタートガイド
中小企業にとってのストレスチェックとは
休職という中小企業最大の経営リスクを回避
中小企業において、従業員がメンタル不調で倒れるダメージは計り知れません。メンタルヘルス不調による病休期間は平均約3か月に及び、復職後の再発率も約半数に達する場合があります。
ひとたびメンタルヘルス不調にさせてしまうと、大きな人材の損失となるだけでなく、経営上のリスクにつながります。
早めに芽を摘むことは、代替要員の確保が難しい中小企業にとって、最も効率的なリスク管理と言えます。
ストレスチェックは「病気の人を見つける検査」ではなく、「メンタルヘルス不調の未然防止」が目的です。
「社長は知らない」からこそ、本音と信頼が生まれる
プライバシー保護は本制度の根幹です。
個人の検査結果は直接本人に通知され、本人の同意がない限り、会社側はその内容を知ることはできません。
また、受検しないことや結果を理由にした不利益な取り扱いも厳禁です。
一見、経営者に不利なルールに見えますが、そうではありません。
「会社に筒抜けではない」という安心感があって初めて、社員は正直に回答します。
この信頼関係こそが、組織の風通しを良くし、人材の定着につながります。
地域産業保健センターの活用
「産業医を雇う余裕なんてない」と懸念されている中小企業も多いと思います。
労働者50人未満の事業場であれば、全国350か所に設置された「地域産業保健センター」を無料で利用できます。
高ストレス判定を受けた社員が希望した場合の医師による面接指導を受けることができます。
小規模事業場ならではの支援制度を使うことで、コストを最小限に抑えつつ、質の高いメンタルヘルス対策が可能になります。
外部委託=負担を抑えて従業員の安心を得る
小規模事業場では、社内の人間関係が近い分、プライバシーの漏洩に敏感になります。
そのため、厚生労働省のマニュアルでは「外部機関への委託」が推奨されています。
自社で無理に実施体制を組もうとすると、情報管理や事務負担など、目に見えない人件費がかさみます。
外部サービスを利用することで、「情報の機密性」と「事務の簡素化」を同時に手に入れるのが、中小企業にとっての正解です。
「ストレスチェックを導入するメリットと、義務化に備えて小規模企業が今行うべき準備」については、こちらもご覧ください。👇

小規模事業場での実施フローと必要な準備
小規模事業場(労働者数50人未満)におけるストレスチェック制度の実施フローは、大きく分けて「実施準備」「実施体制・実施方法の決定」「ストレスチェックの実施」「医師の面接指導・事後措置」「集団分析・職場環境改善」の5つのフェーズで進められます。
以下に具体的なフローと必要な準備をまとめます。
1. 実施準備:導入に向けた土台作り
まずは事業者が責任者として方針を固め、社内の理解を得ることから始めます。
事業者による方針の表明
メンタルヘルス不調の未然防止という目的や、プライバシー保護の徹底について、事業者がメッセージを発信します。
関係労働者の意見聴取
実施体制や方法について、労働者の意見を聴く機会を設けます。朝礼や業務ミーティング、安全会議などを活用することが考えられます。
社内ルールの作成・周知
意見聴取の結果を踏まえ、実施体制、方法、情報管理、不利益取扱いの禁止などを定めた社内規程を作成し、全労働者に周知します。
2. 実施体制・実施方法の決定:具体的な仕組み作り
小規模事業場ではプライバシー保護の観点から、外部機関への委託が推奨されています。
実務担当者の選任
事業場内の連絡調整を行う「実務担当者」を指名します。衛生推進者や安全衛生推進者が選任されることが望ましいです。
委託先(外部機関)の選定・契約
健診機関などの外部機関からサービス内容事前説明書を取り寄せ、料金や体制を比較検討して契約します。
外部機関を選ぶ際には、料金だけでなく、標準サービスの範囲やオプションサービスの内容も必ず確認します。
医師の面接指導の依頼先選定
面接指導をどこに頼むか決めておきます。
小規模事業場の場合、最寄りの「地域産業保健センター」に依頼すれば、無料で面接指導を受けることができます。
委託する外部機関のオプションサービスに付帯している場合もあります。
実施時期・対象者・調査票の決定
1年ごとに1回実施します。
💡ストレスチェックの対象者
対象者は、定期健康診断と同様に、「常時使用する労働者」です。下記の要件をいずれも満たす従業員が対象となります。
1.無期雇用労働者、1年以上の契約見込みのある有期雇用労働者
2.週の労働時間が通常の労働者の3/4以上
3. ストレスチェックの実施:検査と通知
配布・回収
労働者が安心して回答できるよう、外部機関が直接配布・回収するか、無記名・密封などの配慮をして実施します。
管理が容易なweb受検がお勧めです。
結果の通知
実施者(外部機関)から労働者本人に直接通知されます。
本人の同意がない限り、事業者が個人の結果を知ることはできません。
結果の保存
個人の結果は、原則として委託先の外部機関で5年間保存させます。
外部機関の標準サービスに含まれているか事前に確認しておきます。
4. 医師の面接指導及び事後措置:高ストレス者への対応
面接指導の申出・実施
高ストレスと判定された労働者が希望した場合、事業者は医師による面接指導を遅滞なく実施する義務があります。
医師からの意見聴取と就業上の措置
面接指導を行った医師から1か月以内に意見を聴き、必要に応じて残業禁止などの措置を講じます。
5. 集団分析・職場環境改善:組織としての対策
集団分析
集団分析とは、ストレスチェックの結果を一定規模の集団(部や課など)ごとに集計・分析し、当該集団のストレスの特徴や傾向を把握することです。
集団分析は義務ではありませんが、個人のセルフケアだけでなく、分析結果を活かして職場環境の改善につなげることが大切です。
外部機関の標準サービスに含まれているか、オプションサービスとして用意されているか、事前に確認しましょう。
10人未満の集団では個人が特定される恐れがあるため、原則として分析結果の提供を受けてはいけません。
職場環境の改善
分析結果を基に、業務量の調整やコミュニケーションの促進、設備投資(暑さ対策など)を行い、ストレス要因の軽減に努めます。
職場環境改善の取り組み方には、いくつかの類型があり、事業場の状況に応じて最適な体制を選択できます。
- 経営層主導型:労働時間削減や人員配置など、事業場全体の取り組みが必要な場合に有効です。
- 管理監督者主導型:部署ごとの集団分析結果をもとに、管理監督者が中心となって対策を進めます。
- 従業員参加型:従業員を巻き込み、現場の意見を取り入れた改善活動を行います。

5. 不利益取扱いの禁止
労働者の健康確保に必要な範囲を超えて不利益な取扱いを行うことは禁止されています。
具体的には、面接指導の申出や検査結果のみを理由とした解雇、退職勧奨、不当な配置転換などは法律や指針により認められません。
また、受検を拒否したこと、結果提供に同意しないこと、医師面接を申し出ないことを理由とした懲戒処分などの不利益な取扱いも禁止です。
就業上の措置を講じる際は、必ず医師の意見を聴取し、法令に定められた手順を遵守する必要があります。
まとめ:2028年に向けて、今からできる準備を
義務化の施行まで、まだ数年あるように思えるかもしれません。
しかし、2028年を「対応に追われる年」にするか、「社員との信頼関係が完成している年」にするかは、今からの準備にかかっています。
2028年、「選ばれる企業」になるために。
従業員の健康と持続可能な経営。
その両立のための第一歩として、この義務化をポジティブに捉えていただければ幸いです。
外部委託先の選定や規程作成についてお悩みの事業主様は、ぜひ社会保険労務士にご相談ください。
貴社の実態に合わせた最適なサポートを提供し、いきいきと働ける職場づくりをご支援いたします。

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